トゥルー・グリット

コーエン兄弟の映画は苦手だ。

毎度毎度過剰なハッタリを利かせて、語るのは説教臭い“気の利いた小話”。うんざりだ。ただどうもこの「トゥルー・グリット」は様子が違う。コーエン兄弟なのに普通の映画を撮ろうとしてる。4月に劇場で観た時に、なんていうか普通に良い映画だったもんで妙に戸惑った。その上、全篇通してアレンジを変えながら流れ続ける賛美歌「主の御手に頼る日は」が妙に耳に残ってしまう。

それで今回DVDが出たんで観直したんだけど、やっぱり「トゥルー・グリット」良い。今年観た中でも10本に入るくらい好きだ。
今の流行なのか「ソーシャル・ネットワーク」と似てて、絶え間ない台詞が物語を埋め尽くす。ジェフ・ブリッジスヘイリー・スタインフェルドの声に耳を傾け、彼らの語る物語を聞く。それが不思議と心地いい。あっと驚くようなショットは無いんだけど、必要なものはちゃんと撮ろうとしてる。樋口泰人がブログに書いてた川のシーンとかはまさにそれで、不器用にもちゃんとやろうとしてる感じが胸を打つ。あれをもしワンカットで撮れるようになったら、もう誰もコーエン兄弟をバカに出来ない。そんな期待をしてしまうような素敵なシーンだった。

ジェフ・ブリッジスには敵わない

言ってしまえば「クレイジーハート」と一緒だ。酔っぱらいで飲んだくれのオヤジだ。ただこの飲んだくれのデブは、なんの背伸びもしないで、ただそこに居るだけで、「トゥルー・グリット」に味わいをもたらしてしまう。間違いなく「トゥルー・グリット」は今の映画なんだけど、そこにジェフ・ブリッジスが居るだけで、過去と現在を繋いだ上で存在してる映画というか、ジョン・ウェインや西部劇を背負っているかのような気にさせられる。こんな俳優がいるからアメリカ映画ってたまんない。ここ最近、どこか異様なんだけど、力は抜けててなんか良いマット・ディモンや、感情が鼻に出るマティ役のヘイリー・スタインフェルド、チェイニー役のジョシュ・ブローリンの小物感もかなりいい。

マティの命を救うため、コグバーンは彼女を抱え馬に跨がり走り出す。その馬上から彼女が目にするのは、広場に倒れる数体の死体。これまで口ばっかなんじゃないかと思っていたコグバーンの凄さが、実感としてマティに襲いかかってくる。

正直こっから泣きっぱなし。もうダメです。コーエン好きがどう思うかも、西部劇好きがどう思うかも分かんないけど、俺は「トゥルー・グリット」大好きです。



2011年3月18日公開/アメリカ/110分
監督:コーエン兄弟/出演:ジェフ・ブリッジスヘイリー・スタインフェルド