エッセンシャル・キリング

どこでもない場所で、誰でもなくなる映画。

「ザ・シャウト」と「ツリー・オブ・ライフ」の混乱冷めぬまま、今日はイメージフォーラムで「エッセンシャル・キリング」。

どこだか分からない荒野で、ムスリムっぽい服のヴィンセント・ギャロが米軍っぽいのに何故か追われて、何故か逃げてる。追っ手の様子を見る限り、どうやらギャロはかなりの要人。そのギャロが逃げ込んだ岩穴でのバズーカのシーンと、なんじゃそれって脱走シーンが好き(ロングショットの凄い転げ落ちシーンもあった気がするけど、もしかしたらそれは「ザ・シャウト」だったか)。

何度も着替えるヴィンセント・ギャロの衣装と色が印象的。
はじめのムスリムっぽい服から、捕まった際のオレンジ色の囚人服へ。その後の雪原で奪った白い服。そして最後にもらったただの服。物語の進行とともに衣装から意味がはぎ取られ、ムスリムの要人はどんどん誰でもなくなっていく。生きるために奪った真っ白な衣は、画面上での彼の存在を希薄にする。消えてしまうことを拒否するように、傷から溢れた血は彼の白い服を赤く染めるが、それも降り続ける雪で薄まっていく。その上、突然吹き出した母乳にまた白く塗られてしまう。ここでの彼は心底脅えた姿をさらす(もしかしたら吹き出した生命の源に驚いただけかもしれないけど、それにしちゃあ白すぎる)。

何者でもない男は、己が存在するために奪い、喰らい、走り、殺す。
エッセンシャル・キリング(=本質的な殺害行為)は生きることとほぼ同義なのかもしれない。てこたー

また困った映画を撮りやがって!




2011年7月30日公開/ポーランドノルウェーアイルランドハンガリー/83分
監督:イエジー・スコリモフスキ/出演:ヴィンセント・ギャロエマニュエル・セニエ